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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)70号 判決

一 特許庁における本件審査および審判手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の項の記載、本件審決の理由の要旨についての請求原因第一項ないし第三項の事実は、当事者間に争いがない。

右特許請求の範囲の項の記載は、「シクラメートの生理的に適当した塩とサツカリンの生理的に適当した塩の混合物からなり、しかも、上記混合物中に、上記サツカリンは上記混合物の全重量の約九%から約五〇%含まれており、上記混合物を充分量の食用になる水溶液に溶かしたときには、上記シクラメートと上記サツカリンの濃度が別紙図面のカーブABCDEF内に入るような溶液が生成し、しかも、その溶液からは、鑑定者の二〇%以上の人はいやな味を感じないようなところの甘味剤の製造方法」というにあり、いいかえれば、本願発明は、甘味剤の製造方法にかかり、(一)シクラメートの生理的に適当した塩とサツカリンの生理的に適当した塩との混合物からなり、この混合物には、右サツカリンが混合物全重量の約九%から約五〇%含まれており、(二)この混合物を最終的な食用水溶液としたときには、その水溶液におけるシクラメートとサツカリンの濃度が別紙図面のカーブABCDEFの範囲内に入り、(三)これにより、この水溶液については、鑑定者の二〇%以上の人はいやな味を感じないようなものである。

右のうち、(二)の点は、甘味剤の製造方法自体ではなく、(一)の範囲内において適宜の割合で混合された甘味剤の使用方法についての事項に過ぎない。これは、成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の特許願書とその明細書および図面)によれば、本願発明の詳細なる説明の項中に「本発明に包含される新しい甘味剤の製造方法は全重量に対して約九%から約五〇%のサツカリンを含んだところの、食用になるすなわち調理上適当したシクラメートとサツカリンを混合することから成つている。混合物を食用になる水溶液に溶かしたときには、生成したその溶液内のシクラメートとサツカリンの濃度パーセントは第五図(別紙図面)のカーブABCDEFによつて囲われた面積の範囲内に入らなければならない。上述のごとき組成のものを上述のごとく薄めて製造した最後の溶液、すなわち製品は鑑定者の八〇%以上の人がいやな味を感じないような甘味を有するわけである。」との記載があり、その第一文は、本願発明の製造方法が前示(一)の点にあることを明らかにし、第二文は、混合物を水溶液に溶かして使用するときには、濃度パーセントが特定のカーブの範囲内に入るようにして用いられなければならないとし、第三文は、右溶液の効果について説明しているものと解せられること、本願発明の実施例として掲げられているものも、シクラメートの食用塩とサツカリンの食用塩との混合物自体の製造方法を示しており、その混合物自体の形状は、液状に限られず、錠剤状あるいは食品や飲料に少しずつ加えることによつて用いられる顆粒状であること、その特許請求の範囲の項においても、「混合物を充分量の食用になる水溶液に溶かしたときには」として、本願発明を右のとおり解し、右各実施例を含むとするに妨げのない記載をしていることに徴しても、充分うかがうことができる。また、(三)の点については、「鑑定者の二〇%以上の人がいやな味を感じない」という限定的表示をしているが、この数値は、発明者がその目的とし、または収めようとする効果に応じ、任意に選択し定めうるものであり、(三)の点は、本願発明の甘味剤製造方法の目的ないし効果についての記載であつて、これまた製造方法自体についての要件でないことが明らかである。したがつて、本願発明の甘味剤の製造方法は、サツカリンの食用塩とシクラメートの食用塩とを特定範囲の配合割合すなわち(一)の割合で混合することにあると認めるのが相当である。

二 ところで、本願発明において、右配合割合の範囲は、サツカリンの食用塩が、サツカリンの食用塩とシクラメートの食用塩とからなる混合物の全重量の約九%から約五〇%まで含まれているというのであり、したがつて、サツカリンの食用塩とシクラメートの食用塩との配合割合(重量比)は、サツカリン一部に対してシクラメート約一部から約一〇部であるから、この割合には、両者をほぼ等量に配合する場合を含むことは、いうまでもない。そして、一般に、本件におけるような二種類の物質を混合する場合、ほぼ等量に混合することは、通常使用される配合割合であつて、きわめて自然に思いつくことであること、一方、本願発明出願当時、人工甘味料ズルチンを同サツカリンに混合すれば、そのいやな味が減殺されて甘味を増進しうることが公知であつたことは、当事者間に争いがなく、さらに、成立に争いのない甲第二号証の二(特許庁における本件手続上原告が提出した意見書)によれば、右出願当時、二種類の人工甘味料を適当に混合し甘味剤として使用することが慣用手段であつたことが認められ、右は、当業者に対し、二種類の人工甘味料を配合すれば、人工甘味料のそれぞれがもついやな味を減殺し、甘味が増強される可能性についての技術を十分に示唆しているものといいうること、および原告も自認するとおり、シクラメートの塩(シクロヘキシルスルフアミン酸ソーダ)が本願発明出願当時公知の人工甘味料であつたこと(引用例)を考え合わせれば、たとえ、ズルチンとシクラメートとの間における化学構造上の差異その他原告の主張する諸点を考慮しても、この両人工甘味料は、当業者においてその一方から他方を容易に想到しうべく、ひいて、右ズルチンとサツカリンとの混合物からなる公知の人工甘味剤について、ズルチンに代えるに公知のシクラメートの食用塩をもつてし、かつ、少なくとも、そのシクラメートの食用塩とサツカリンの食用塩との配合割合をほぼ等量とし、人工甘味剤を製造することは、本願発明の甘味剤がズルチンとサツカリンとを混合した甘味剤に比し、混合による甘味の改善増強について特段の作用効果を収めることをうかがいうべき資料もない本件においては、当業者の容易に推考しうることと認めるのが相当である。

三 右のとおりであるから、本願発明をもつて引用例およびその指摘の慣用技術にもとづいて当業者の容易に推考することができ、特許要件を欠くものとした本件審決には、結局、原告主張のような違法はなく、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。

〔編註〕 本件に関する別紙とは左のとおりである。

「本願発明の混合物中のサツカリンのパーセント濃度に対して、その混合物によつて甘くした最終の溶液におけるサツカリンのパーセント濃度をとることによつて得られた、鑑定者の二〇%がいやな味を感ずる範囲を示したカーブABCDEFによるグラフ」

<省略>

(注) グラフの横軸には、最終の溶液を得るために用いたシクラメートとサツカリンとの混合物における、サツカリンのパーセントを、また、その縦軸には、横軸に平行な基準線0によつて上下に分けて、最終の溶液中のシクラメートのパーセントとサツカリンのパーセントとを、それぞれ、表わしてある。

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